【児童文学】太陽の子
これ今の政治家全員読み返すべきでは?
連れ合い「人の心の奥にある怒りや悲しみ、寂しさや恐怖を丁寧に書いてるんだよ。丁寧に書きすぎなんだけど」
連れ合いイチオシの児童文学作家・灰谷健次郎さん。
勧められるがままに読んだ『兎の眼』で「すげえこと書く人もいたもんだな…子供向けで…」とびびったけど、あれはまだ本気じゃなかった。
これ買って安倍晋三の事務所に送ろうかな。
以下ネタバレなので注意。
日本は沖縄にどんな仕打ちをしたか?勝手に過去のものとしていないか
「いいか、この手をよく見なさい。見えないこの手をよく見なさい。この手で場所が生まれたばかりの我が子を殺した。赤ん坊の泣き声が敵に漏れたら全滅だ、おまえの子どもを始末しなさい、それがみんなのためだ、国のためだー明日朝守りに来た兵隊がいったんだ。
沖縄の子供たちを守りに来た兵隊はそういったんだ。みんな死んで、その兵隊が生き残った。」
「法の前に沖縄もクソもないとあんたは言った。そのことを心から望んでいるのが沖縄の人間だとしたら、あんたがたは何と言うだろう。
失業率は全国最高、高校修学率は全国最低だけれど、あなた方はそのために何かやったかね。
今6ヶ月の赤子を育児中ですが、赤子、常に笑ってるんですよ。私や連れ合いを見るとすごく嬉しそうに笑ってくれるんです。転がすだけで楽しそうな声を出します。
そんな子供を殺せと言われたら?お前の手で始末しろ、それがお国のためだと言われたら?やるしかないという状況に追い込まれたら。
別に自分の意思で戦争を始めたわけでもないのに。
想像するだけで気が狂いそうになりますが、実際やらせてきたことなんです。
その事実は、忘れてはいけない。
「知らなくてはならないことを、知らないで過ごしてしまうような勇気はない人間に、私はなりたくありません。」
戦争の傷がかなり見えなくなってきた時代の話…だけど、傷は見えにくくなってきただけ。
沖縄の人はなぜ本土に来なければならなかったのか?生まれ故郷で生活することがなぜできなくなったのか?
「太陽の子」発表は1978年。そこから40年経った今でも、まだ日本人は沖縄に戦争の傷跡を押し付けている…だけでは飽き足らない暴走をしつつある。灰谷健次郎さんが在命だったら、今の世の中について何と言っただろうか。
嘆いてくれるだろうか、怒ってくれるだろうか。
死んだ人の命を、今、もらって君たちは生きているんだ。
君たちのおとうさんおかあさん、あるいはおじいさんおばあさんが、こんな目に遭ってきたんだ。遠い昔のことじゃない。第二次世界大戦ーポツダム宣言ー重三菱ときちんと結べて百点満点の答案用紙をもらっても、君たちのおとうさんおかあさん、おじいさんおばあさんの苦しみが分からなければ、何もならないじゃないか。死んだ人の命を、今、もらって君たちは生きているんだ。死んだ人が、何をいたかったのか、もし、君達子の声を聞く耳がなかったら、死んだ人は犬死にじゃないか」
梶山先生は生徒をえこひいきしていること・問題のない生徒にはあまり構っていないと批判する手紙を生徒から受け取って、それをきちんと読んで真摯に受け止めている。
「兔の瞳」には灰谷健次郎が理想と考える教師が出てきたけれど、今作「太陽の子」にも出ている。
灰谷健次郎はもともと教師をやっていたからか、リアリティーがものすごい。
でもここまで真剣にすべての生徒と向き合うって正直無理なのではないかしら…生徒全員の心を全て全部受け止めて向かい合うなんて、限界がすぐきて壊れてしまうだろうな…ニュータイプとして覚醒したカミーユ・ビダンみたいに…ふうちゃんのおとうさんは悲しみを受け止めすぎて壊れてしまった人だしなぁ…
絶望の果てに書き上げられたはずなのに、陽だまりのように明るい文体
絶望を嫌という程味わった後、それでも希望を持って生きようとする人たちを描く文体は、明るい。カラリと晴れた空気を纏っているのに、核には悲しさや怒りを孕んでいる。
「生きている人だけの世の中じゃないよ。生きている人の中に死んだ人も一緒に生きているから、人間は優しい気持ちを持つことができるのよ」
子供に読んでほしい?と連れ合いに聞かれて
ラスト5分の1はタオルを涙と鼻水で鳴らしながら読破。横で覗いていた連れ合いもすすり泣き。
偉い人と言うのは、偉い政治家や、優れた仕事をした芸術家や学者や、名の残るような実業家というような人たちを思っていました。今私は人間が偉いと言う事はそんなことではないと思い始めています。とても大きな問題なのでうまく言えませんけど、どんなに辛い時でもどんなに絶望的な時でも、本気で人を愛することのできる人が偉い人だと思うのです。
読み終わった後「これは赤子に将来読ませるべきだと思う?」と聞かれました。もちろん読んでほしいです。私は連れ合いと子供と幸せに暮らしているけど、その幸せは沢山の死体の上に成り立っていることを無視してはいけないことくらい、わかってるんだよ。
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